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事務所を移転しました

延び延びになっていた事務所の移転がようやく一段落したところです。
移転先は福岡市中央区大名。

新事務所は旧事務所から徒歩15分くらいの近場にありますが、周りの雰囲気は随分と違います。市営地下鉄が通るメインストリートに面しているせいか旧事務所があった薬院駅周辺より慌ただしい感じがします。

新事務所は福岡県産の木材をふんだんに使用した凝った内装となっています。木の香りと間接照明の織りなす落ち着いた雰囲気が、外界の喧騒から隔離されたような非日常的な世界を演出します。

是非一度ご体験ください。

新事務所が入居するビルの一階には『博多ひいらぎ』『蜜屋』が隣り合って入居しています。どちらもジャパニーズスイーツ(鯛焼き,焼き芋)の人気店です。

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メルカリで売れるためには

令和2年の春、STAY HOMEで自宅にいる時間が長かったのと引越しの準備が重なったこともあって、思い切って断捨離を実行しました。

断捨離するならメルカリで現金化

一度も着用することなくタンスの肥やしとなっていた服や靴、音質や着用感が好みではなかったヘッドフォンやイヤフォン、機種変更後も何となく所持していたiPhone、数年間電源を入れていない大型テレビ、年に数回しか乗らない折りたたみ式自転車などなど。

試しにメルカリで出品してみたところ…完売となりました!

メルカリで売れるための工夫

程度の良い品物を安価で出品したから完売したんでしょ、と言われたらそれまでなのですが、初心者なりに多少の工夫もしました。

既に常識なのかもしれませんが、その一部を紹介します。
何かの参考になれば幸いです( ^ω^ )

写真は大事!

写真が全てだ!とまでは言いませんが、かなり重要なポイントになると思います。

写真撮影において特に注意したのは次の3点です。
・過剰な編集を加えない。
・陰影や立体感を演出する(真上や真横より斜めのアングル)。
・トップ画像は注意を惹くものを。
背景は大事。生活感が見えてしまうようなものが写り込まないこと。

このほかにも例えば、iPhoneを出品する際には背景にMacBookやiMacが嫌味なく写り込むように撮影しました。これは、iPhone以外にもアップル製品を所有し使用しているということが相手に伝わり、人によってはそれをプラスに評価するからです。

商品説明は簡潔に!

商品説明の最初に商品の客観情報を箇条書きで記載しました。

具体的には、購入した時期、使用回数(頻度)、現在の状態(程度)、手放す理由などを淡々と書いただけ。

同じような商品が他にもたくさん出品されているのだから、商品と関係の薄いことをだらだら書いていると、忙しい購入者は次の商品に移ってしまいます。

ときどき商品への熱い想いや蘊蓄が長々と述べられている出品をみかけますが、趣味性の高い品やハンドメイド品ならそれがプラスに働くこともあると思います。

マイナス要因とプラス要因のバランス

それからマイナス要因(傷や汚れ、不具合など)は隠したりせず、できるだけ開示した方がよいと思います。

もちろんマイナス要因を書いたら売れにくくなりますが、それは仕方がないですね。

そういうときにはプラス要因も併せて記載してみてはいかがでしょうか。

過去にiPhoneを出品した際、液晶画面に一部濁りがあったので、そのことを明記し、さらにその濁り部分を確認できる画像を掲載しました。普通なら大きなマイナス要因なのですが、ちゃんと売却できました。

その理由は、購入者が商品に求める条件をきちんと記載していたからです。

購入者はミュージックプレーヤーとして使用するためのiPhoneを探していました。なので液晶の状態はそんなに気にならず、それよりはむしろバッテリーの最大容量が90%以上あること、音量ボタンが正常に機能することの方を評価したのだそうです。

液晶のマイナス要因とともにこれらのプラス要因もきちんと記載していたのです。

やはりブランド品は強い

今回、初心者ながらほぼ完売できた一番の理由を挙げるとすれば、ブランドが確立している商品は中古でも売れやすい、ということになります。

メルカリのように実際に商品を手にとって確認できないケースでは、店頭でも販売以上にブランドの信頼力が商品の品質の判断材料になります。実際に衣類などアパレル系の出品をみてみると、ノーブランド品はずっと売れ残っているか、捨値での売り捌きに近い状況になっているようです。

このことは裏を返せば、購入時の価格が多少高くなっても、ブランド品(必ずしも高級品である必要はなく、製造者・販売者がはっきりしている商品を指します。)を購入しておけば、モノによってはいい値段で売れるため、ノーブランド品をいくらか安く購入する場合と比べてトータルでの価格差は小さくなり、場合によっては逆転するということになります。

実際、先日手放した折りたたみ自転車(Tern社製)は、5年以上前に購入したものであるにも関わらず、購入時の半額以上の値段で売却することができました。

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知的財産

商標に歴史あり(三ツ矢サイダーの名称の由来)

弁理士のところには名称に関する相談がよく持ちかけられます。
会社の名称、商品の名称、ウェブサイトの名称などなど。
そのときに必ずお尋ねする質問があります。

「名称の由来はなんですか?」

大方の予想がつくケースも多いのですが、なかには想像もできないような意外な意味や由来があったりして、好奇心を大いに刺激されます。

今回は、そんな名称の由来についてのお話。

きっかけは先日訪れた「大将陣公園」の案内板です。大将陣公園は大将陣山(福岡県飯塚市)の山上にある風光明媚な公園です。公園の片隅に掲げられた案内板には『天慶4年、藤原純友討伐の勅命を受けた源満仲がこの山に陣を敷いた。』とありました。

平安末期〜鎌倉〜南北朝あたりの歴史が大好きな私は、この案内板の記述にちょっとした違和感を覚え、
「ん? 満仲? 純友を討伐したのは満仲の父の経基だったはず。」
帰宅後、改めて満仲について調べてみました。

少し前置きが長くなりましたが、このような経緯があって満仲について調べていたところ、ある有名な商標の由来が彼の故事にあったことがわかりました。

それは「三ツ矢サイダー」です。

商標『三ツ矢サイダー』の由来

以下、三ツ矢サイダーの製造元のアサヒ飲料株式会社のウェブサイトから引用。

”平安時代の中頃、源満仲(ミナモトノミツナカ)という武将がお城を作ろうと神社に祈りをささげたところ、「矢の落ちた所に作りなさい」とお告げがあり矢を放つと、多田沼の“九頭の龍(クズノリュウ)”に命中したそうです。そこで、満仲はここに城をかまえ、そのときに矢を探しあてた男に、三ツ矢の姓と三本の矢羽の紋が与えられました。また、あるとき満仲は鷹狩りに出て、偶然、近くの谷に湧く水で鷹が足の傷をなおして飛び立つのを目の当たりにしました。これが多田村平野の天然鉱泉でした。この平野が三ツ矢という姓の発祥の地で、明治時代にこの故事にならい湧き出ていた天然鉱泉を「三ツ矢平野水(ヒラノスイ)」と名付けて発売されたのがはじまりです。

三ツ矢のロゴマークが最初に商標登録されたのは明治42年(1909年)。

同サイトによれば、このとき「三ツ矢」の他にも「ニツ矢」「四ツ矢」「五ツ矢」を商標登録したのだそうです。似たような商標が乱立するのを防ぐためだったのでしょう。「三ツ矢」ブランドに対する熱い思いを感じます。

現在の三ツ矢サーダーのパッケージには、三ツ矢のロゴの他にブクブクと湧き出す泡がデザインされていますが、この泡の数は9つ。これは満仲の放った矢が命中した龍の頭の数と一致します。

泡の数については公式サイトには特に記載されておらず、どなたかのブログに記載されていました。実際のところどうなんでしょうか?

事務所の常備品。疲れた頭がスッキリします♪

満仲の三男、頼信は河内源氏の祖

源満仲は現在ではそれほど有名とは言えないかもしれませんが、実は源氏の有名どころのほとんどは満仲の子孫なのです。

八幡太郎義家、征夷大将軍頼朝、義経、鎮西八郎為朝、頼義といった名門河内源氏は満仲の三男である頼信を祖とします。

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iPod touchと商標権の強化

先日、ほぼ未使用の第6世代iPod touchの中古品を元値の30%程の価格で購入しました。有線イヤホン端子がついたiOS端末という条件で探すと、現状ではほとんどiPod touch一択となります。

iPod touchについてネットで情報収集したところ、第7世代(現行型)と第6世代(旧型)では搭載するチップがA10 FusionA8かの違いしかなく、肝心の音質には差がないとのことだったので、第6世代で十分との結論に到ました。

指定商品の拡大から見えてくるアップル社の戦略

iPod touchに関するちょっと面白い記事をみつけました。
“Apple Extends iPod Touch Trademark to Include Gaming Devices”

この記事によれば、「商標『iPod Touch』は、2008年以来、第9類(テキスト、音響および映像に関する携帯式電子端末)のみを指定商品としていたが、これを第28類(携帯式ゲーム機)にまで拡大したことが、2019年1月、米国特許商標庁(USPTO)の公開公報によって明らかになった。」とのことです。続けて、「iPod touchは、発売開始以来ずっとゲーム機としても利用されてきたのに、どうして10年以上経過した今頃になって指定商品を拡大したのか?」「単に競合他社に対する防衛策とも考えられるが、新型登場の噂もあるだけにより進化した第7世代への期待が高まる。」と書かれています。

その後、2019年5月に発売された第7世代iPod touchは、前記記事の予想通り、より強力なCPUが搭載されるとともにRAMが1GBから2GBに拡張されました。

私はゲームには詳しくないのですが、このアップデートによって第7世代iPod touchは第6世代では対応しきれなかった多くのゲームがプレイできるようになったそうです。そう考えると、このタイミングで指定商品の範囲を拡大した行為が非常に戦略的なものであったことがわかります。

知財戦略は成長のカギ

このことだけを見てもアップル社の知財戦略が適切に機能していることは一目瞭然です。

適切なタイミングで適切な権利を取得する。一見すると簡単なようですが、これを完璧にやり遂げるためには、開発、生産、広報、知財などの各部門における緊密な連携と、これらを統括する責任者がいなければ到底できない技だと思います。

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Zoomミーティング(オンライン面談)導入

先日、新規のお客様からオンライン面談の要望がありました。

「電話やメールによる応対はしておりますが、オンライン面談の経験はないです。」と正直にお答えしたところ、「Zoomミーティングを取り入れるべきです。私の会社では3月からZoomミーティングを利用して業務を行なっています。とても便利ですよ。」

その勢いに押されて、アカウントを作成し、いざ面談・・・
おおっ、思っていた以上に使えそうなツールですね。

現在のところセキュリティ面であれこれと問題が指摘されているようですので、こちらから積極的に持ちかけることはしませんが、ご要望があれば取り入れてもいいかなとも思います。

Zoomを取り入れたことで得られたメリット

Zoomで特にいいなと思った点は、こちらが何か説明しているときに相手の表情がリアルタイムで確認できることです。

日頃から、言葉は抽象的になり過ぎることなく、具体的事例を取り混ぜながら、を心がけてはおりますが、やはり法律が絡むとなると回りくどい説明がどうしても必要になります。そういうときに電話だと相手の表情が窺えないため、もしかしたら置いてきぼりにしていないかとても不安になります。適度に相槌を打ってくれる相手であればよいのですが、無言で説明を聞くタイプだと不安感MAXです。

オンライン面談は対面とほぼ変わらない感覚で会話ができますので、このような不安感は払拭されます。なにより面識のない方の顔(表情)が見えるということで、お客様にとっても弁理士にとってもとても安心感が得られます。安心感が生まれると、相手や相手の主張に対する構えた態度が和らいで肯定的になる傾向がありますので、その後の会話がスムーズに進みます。

実際にこのお客様からも「インターネットで2日かけて調べても分からなかったことが10分で理解できた」との声をいただきました。

ノンバーバルコミュニケーションの重要性

その昔、初めての職場である某役所の初期研修の場で、講師の先生が、「人間の意思の90%以上は言葉以外のノンバーバルコミュニケーションによって伝えられる」みたいなことをお話しされていましたが、今回、改めてこの言葉の重要性を実感することができ、とてもいい経験になりました。

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コロナ禍で弁理士業務に変化はあったか?

仕事の意味抜きにこの記事を書いております。
弁理士一般の状況を俯瞰したものではなく、地方都市で開業する小規模事務所の近況報告といった程度のものとお考えください。

係争案件に関する相談・依頼の急増

例年と顕著に異なるのは、ここ1ヶ月ほどの間に係争案件の相談が増えたことです。具体的には「商品を模倣された」「ウェブサイトの名称が登録商標と酷似していると警告された」「自社通販サイトの画像が無断転用されている」などといったもの。

このような場合、いきなり訴訟に発展するのではなく、まずは相手の出方を窺うため「警告書」や「通知書」を送ったり、送られてきたりします。送られてきた側は「回答書」を返送し、不法行為ではないことを弁明したり、交渉したり、ときには素直に謝罪することもあります。
係争案件の相談はときどきあるのですが、短期間にこれだけ集中して相談があったのは初めての経験です。

先の見えないコロナ禍のなかで、各社とも自分の拠り所である事業をなんとしてでも死守したいという切迫した意思が感じられます。

感染予防・防止に関する発明と商標

これはある程度の予想はついていたことですが、コロナ関連グッズというのか、感染予防や防止に関する製品のアイデア、ネーミングなどの相談も増えました。

その中でも特に印象的だったのは、これまで人が集まる場所で使用する製品を製造してきた会社が瞬時に方向転換を決断し、新しい事業として選んだのは、これまでとは真反対の遮断・隔離・遠隔をキーワードとする事業だったことです。

長年の夢だった特許出願

最後にもう一つ、外出規制、自粛要請などの影響で仕事量が減少した経営者の方からの相談もありました。これまで日々の経営に忙殺され、なかなか自分の時間を持つことができない生活を送られてきたそうです。幸か不幸か時間ができたので、これを機に長年の夢だった特許出願をしてみようと行動に移されたということでした。

「こんなアイデアを持ち込んできやがってと先生には笑われるでしょうが…」などと照れ臭そうに話される姿がとても印象的でした。

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ステマと商標の関係〜100日後に死ぬワニ

「100日後に死ぬワニ」の完結。主人公の死という厳粛な場面の余韻に浸ることも許されないまま「書籍化決定!」「映画化決定!」「グッズ・イベントなど続々!」などの大々的な告知があったことで、巷では「最初から商品化ありきだったのか?」「ステマだろ!」「死んだ途端に商品豊富すぎて草」などと、これまでになく炎上しているようです。さらにはブームの背後に広告代理店が絡んでいるとの憶測から、「電通案件」という言葉も見かけるようになりました。

実は昨日まで「100日後に死ぬワニ」のことも、またそれが一部でブームになっていることも全く知らなかったので、この件に関して特段の感情はないのですが、ステマの根拠として、商標登録のことに言及されていましたので、この点について少しだけ書いてみたいと思います。

きくちゆうき氏と商標の関係

きくちゆうき氏の「100日後に死ぬワニ」は2019年12月12日にTwitter上で連載が開始されました。

連載開始から約1ヶ月後の2020年1月16日に、商標『100日後に死ぬワニ』が商標登録出願されています。菊地祐紀(本名?)氏と株式会社ベイシカとの共同出願です。

一部で誤解があるようですが、商標は出願中であって、まだ審査もされていません。登録されるまでにあと一年はかかります

特許庁のデータベースがメンテナンス作業中でしたので、指定商品については明日以降できるだけ早急に調査して報告します。おそらく各種グッズや書籍、映像に関する商品が羅列されているだろうことは容易に予想がつきます。

株式会社ベイシカとの関係

連載開始から出願までの間に約1ヶ月のタイムラグがあります(出願の方が遅い)。

連載開始前からきくちゆうき氏と株式会社ベイシカとの間に密接な関係があったとすれば、1ヶ月も待つことなくもっと早い段階で、理想的には連載開始前に出願を済ませておくのがこの世界での定石です。ブームに火がついてから出願することの危険性は、少し前の「PPAP商標問題」などでご記憶の方も多いでしょう。

とすれば、「100日後に死ぬワニ」の影響力・訴求力(Twitterのフォロワー数etc)を奇貨とみた株式会社ベイシカは、菊地祐紀氏にアプローチし(もしくは誰かがきくち氏にベイシカを紹介した)、両者はビジネスパートナーとなり、商標を出願したという流れがみえてきます。

弁理士の目からは、きくちゆうき氏と株式会社ベイシカがいつどこで知り合ったのかという問題よりも、この出願が「共同出願」であるということにより多くの興味を惹かれます。

共同出願には問題が多い

出願人は最終的には商標権者になるため、誰が出願人になるのかの決定は非常に重要な問題です。共同出願(=商標権の共有)は法律上の制約事項が多いので、将来的に利害が対立する可能性がある場合は共同出願を避ける傾向にあります。どちらか一方を出願人(商標権者)とし、他方とは契約や覚書等で両者間の法的関係を規定するという選択肢もあります。

【以下、追記】
「100日後に死ぬワニ」の商標登録出願について詳しく調べてみました。
詳細はここで確認できます。
出願人は株式会社ベイシカと菊地祐紀氏、出願日は令和2年1月16日と前述した通りです。
注目すべきは指定商品の多種多様さです。
ロフトなどで販売されているようなグッズがほぼ網羅されています。
一つ気になったのが、「飲食物の提供」(第43類)が指定されていません。東京・大阪でカフェの展開を企画されているようですが。
もしかしたら他の名義で出願されているのかもしれませんが、今後この件に関して大きな動きがあるようであれば調べてみるかもしれません。

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著作物の保護と利用について(JASRAC vs. 音楽教室の地裁判決を考える)

著作権法第22条には、「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。」と規定されています。

今回は、この著作権法第22条に規定されている権利、いわゆる「演奏権」について、日本音楽著作権協会(JASRAC)ヤマハ音楽振興会等との間の係争をめぐる昨日の地裁判決に絡めながら筆を進めます。

演奏権とは

プロアマを問わず作曲者には、作曲した作品(著作物)を独占的に演奏する権利が与えられます。この権利のことを「演奏権」と呼んでいます。

例えばAさんがある楽曲を作曲した場合、Aさんだけがその楽曲を公に演奏することができます。誰かが「Aさんの曲は素敵だな〜 自分もピアノで弾いてみたいな〜」と思っても、原則としてAさんの許可を得なければ公に演奏することはできません。

ただし、例えば自分一人でピアノに向かって弾く場合(すなわち聴衆はゼロ)、自宅などで家族や友人の前で弾く場合(極めて限定された聴衆のみ)には、「公の演奏」ではないので、Aさんの許諾を得なくても自由に弾くことができます。もちろんAさんから権利侵害として訴えられることもありません。

演奏権の解釈を巡る争い

今回の地裁判決は、ヤマハ側の主張する「演奏権」の解釈が東京地方裁判所において認められなかったというものです。

具体的には、音楽教室において講師の先生が生徒に対して模範演奏を提示する行為が、著作権法第22条に規定するところの「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として演奏する」に該当するのかという点が最大の争点になっていました。

これには2つの論点があります。

①先生や生徒が教室内で演奏することは、「公衆」に対して演奏することになるか?
②先生が模範を示すためにする演奏や、生徒が技術の習得のためにする演奏は、「聞かせることを目的として」いるのか?

音楽教室にいる生徒は公衆??

①について、学説や判例はほぼ確定しており、今回の地裁判決はそれに則ったものです。

すなわち、教室内での演奏=公衆に対する演奏、という結論です。

教室内の生徒が公衆?と思われるかもしれませんが、著作権法においては「特定かつ少数の者」以外は「公衆」であるというのが合理的解釈とされています。

文化庁のウェブサイトでは「公衆」について次のように説明されています。

「公衆」とは、「不特定の人」又は「特定多数の人」を意味します。相手が「ひとりの人」であっても、「誰でも対象となる」ような場合は、「不特定の人」に当たりますので、公衆向けになります。

一般的な「公衆」の語感とはかなり異なりますが、たとえ教室という閉鎖的な空間であって、さらに少人数の生徒しかいない場合であっても、受講契約を結べば誰でも教室でレッスンを受けられるという開放的なシステムである以上、そこでの演奏は公衆に向けた演奏になるという理屈です。

「演奏」とは芸術的価値を享受させるものという原告の主張

②について、原告の主張はかなり斬新で、さすがは音楽家集団だと唸らされました。

原告は、”音楽の著作物の価値は、人に感動を与えるところにあり、法第22条は、聞く者に感動を与えるという音楽の芸術的価値に権利性を認めた点にある。”と前提した上で、”音楽教室での演奏は、(中略)、曲の一部分について繰り返し行われることがほとんどであって、音楽の芸術的価値を享受させるための演奏とは程遠いものである。”と主張したのです。

これに対する裁判官の判断は極めてドライなものであり、「演奏」に該当するためには「外形的、客観的に他人に聞かせる意思があれば足りる」というもの。

原告は「音楽としての」演奏を主張し、地裁は「行為としての」演奏を主張したという図式でしょうか。

私自身も一応はヴァイオリニストの端くれですので、原告の主張には心からの理解を示しつつも、行為としての「演奏」は空気の振動の伝播という物理現象に過ぎませんので、そこに原告が主張するような内面的意思(いわばオカルト的なもの)を含ませることが許容される余地はないということになります。

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弁理士が主人公の小説〜海野十三を知っていますか?

海野十三という小説家の作品に「特許多腕人間方式」という短編小説があります。

こんな感じでストーリーが始まります。

”×月×日 雨。
午前十時、田村町特許事務所に出勤。
雫の垂れた洋傘をひっさげて、部屋の扉を押して入ったとたんに、応接椅子の上に、腰を下ろしていた見慣れぬ仁が、ただならぬ眼光で、余の方をふりかえった。事件依頼の客か。門前雀羅のわが特許事務所としては、ちかごろ珍らしいことだ。
「よう、先生。特許弁理士の加古先生はあんたですな」
と、客は、余がオーバーをぬぐのを待たせない。”

冒頭たった数行で「特許事務所」「特許弁理士」が登場します。弁理士ではなく特許弁理士となっていますが、明治から大正にかけては特許弁理士と称されていたそうです。それ以前は「特許代理業者」と呼ばれていたようです。

そのまま読み進めると、これがとても面白い。
実際に特許出願を弁理士に依頼した経験のある方だとさらに楽しめるのではないでしょうか。

小説の前半は、依頼者と弁理士との会話で進んでいきます。

守秘義務、実施態様、産業上の利用性、公知文献、特許印紙など、特許業界の人間にとっては馴染みのある言葉が次々に出てきます。
依頼者から頂戴した着手金が思わぬ大金だったので、弁理士の加古先生は嬉しさのあまり事務所を閉め、そのまま家路へと急ぐところで前半は終わります(笑)。

小説の中盤は、明細書を書き上げるシーン。

加古先生は着手金である百円紙幣と会話しながら、発明の名称、特許請求の範囲、実施形態を作成していきます。このあたりなかなかシュールです。
それしても、この海野十三という人、よくこんな細かいところまで調べたなー、なんて考えていると、請求項の作成の段で、「少なくとも・・・」という表現を持ち出したあたりで、おやっ?と思いました。

この人、相当に特許実務に精通している。

早速ググってみたたところ、海野十三(本名「佐野昌一」)は弁理士との記載があるではないですか!

その後、小説は、出願審査請求→拒絶理由通知→意見書という具合に特許実務の流れに沿って話が進んでいきます。ここでは引用しませんが、拒絶理由通知や意見書も実にリアルに表現されています。

「特許多腕人間方式」は、特許に詳しい人であれば大いに楽しめる作品ですが、そこは「日本SFの始祖」と称される海野先生のこと、飄々とした文体から滲み出るちょっぴりシュールなユーモアも満載なので、どなたにでも面白さを味わっていただけるのではないでしょうか。

海野先生には、「名士訪問記 ――佐野昌一氏訪問記――」という作品もあり、海野自身がインタビュアーとして弁理士 佐野昌一を訪問取材するという、これまた奇妙な設定の掌編です。内容は…弁理士なら必見です。

こんな素敵な弁理士がいたんですねー
海野十三氏のことはこの短編小説と偶然出会うまでは全く知りませんでした。

青空文庫には彼の作品が200編近く収録されています。
星新一氏筒井康隆氏などがお好きであればきっと楽しめると思いますよ。

ちなみに、海野先生はどのようなお顔なのかなと調べてみたところ…たまげました。

ダンディーすぎる弁理士!!
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続・コロナウイルスと中国の特許事務所

上海市民政局が、コロナウイルスの感染経路として「飛沫感染」「接触感染」に加えて新たに「エアロゾル感染」の可能性があることに言及したそうです。さらに、今後の感染予防策として「一切の社会活動関連の会合を取り消すべき」とまで明言しているようです。

日常生活における感染のリスクが一気に高まりました。

弊所のカウンターパートの中国弁理士から、本日(2/10)から出勤予定だったが、自宅待機がさらに10日間延長になったとの連絡がありました。彼の住む地域では緊急性の高い職種以外は出勤禁止の措置がとられているそうです。

「エアロゾル感染」の可能性がある以上、現状では自宅待機が最も効果的な措置なのでしょう。迅速な判断と従順な態度に中国のまだまだ知らない側面を垣間見た気がします。

中国事務所からは、自宅作業体制のシフトを組んでいること、従って、重要案件は引き続き対応可能であることも知らせてきました。

このような安心材料の提供は本当にありがたいものです。