意匠権を賢く使いましょう
特許に比べて意匠はほとんど知られていない
特許の相談に来られたクライアントに意匠の話をすると、「そんな権利があるんですか!」とか「うちの商品には意匠の方が良さそうですね」とか、意外と好評を得ています。
特許についてはその概要や効用について知っている方も多いことから、いっそのこと「意匠」を「デザイン特許」とでも呼べば、理解が得られやすくなるし、活用の場がもっと広がるように思います。
「意匠」は「デザインに特化した特許」
「意匠」と「特許」の比較についてはネット上にたくさんの記事があるのでそちらに任せるとして、ここでは「意匠=デザインに特化した特許」と理解していただければ十分です。「特許」が物の構造や仕組み、それからアプリケーションやソフトウェアのような目に見えない情報処理システムなどを対象としているのに対して、「意匠」は物の形状や模様、色彩などの「外観」、アプリケーションやソフトウェアを操作するための「画面デザイン」(アイコンやメニューボタンの色彩や形状、配置など)などを対象としています。
意匠は特許に比べるとかなりリーズナブル
それから費用面ですが、特許に比べると意匠は非常に安く権利化できます。
特許の場合、一般的な例として、出願時に30万円前後、審査請求時に18万円前後、登録時に15万円前後の費用が最低でも必要になります(中小企業等は多少の減免措置あり)。拒絶理由通知を受けることを考えると+10〜15万円はみておいた方がよいでしょう。
これに対して意匠の場合、出願後すぐに審査が始まるので審査請求の手続きが不要です。また特許に比べると書類作成に係る手間が少ないので、その分だけ費用が抑えられます。一般に意匠の出願から登録までにかかる費用は12〜15万円くらい(+図面作成費用)ではないでしょうか。特許の場合ほど拒絶理由通知を受けることはありませんが、その対応には5万円前後の費用が発生します。
『部分意匠』や『関連意匠』を活用して隙のない布陣を整える
「意匠は外観や形状だから、見た目を変えられたらすぐ逃げられる。だから権利として使い物にならない」などという意見を耳にすることもあります。
その通りです。でもそれは特許も商標も同じこと。そもそも外観を変えられたらもはや意匠としては別物なので権利範囲から外れるのは当たり前です。
ところで何か新しいデザインを考案した場合、全体に満遍なく独創的デザインが施されているというケースは少ないと思います。ノック式ボールペンを例に挙げると、各メーカーによってボディーが太めか細めか、直線主体か曲線を交えているかなどの違いはありますが、全体的なプロポーションはそう大きくは変わりません。ボールペンのボディーは使用感に影響を与える部分なのでデザインの自由度が非常に制約されます。そのため各メーカーは、そのような制約の少ないクリップ部分の形状でデザインの差別化を図っています。
この場合、せっかくクリップ部分に斬新で魅力的なデザインを施したとしても、例えばノックやグリップの形状を変えられたら、クリップ部分をそっくりそのまま真似されていても意匠権の効力が及ばないということになります。
そこで『部分意匠』の登場です。この『部分意匠』を活用して特定の部分の形状を保護することができます。つまりボールペン全体の意匠ではなく、クリップ部分のみの意匠ということです。この『部分意匠』を最も効果的に活用しているのがアップル社です。全体と部分の意匠をうまくミックスしながら隙のない布陣を構築しています。
関連する記事『Q8.部分的にデザインを変えて真似されるのを防ぐことはできる?』
『関連意匠』についても触れたかったのですが、説明が長くなるのと、『部分意匠』と違って費用が嵩むという問題があるため、ここでは割愛させていただきます。図などを使って分かりやすく解説しているウェブサイトもありますので、興味がある方はそちらでご確認ください。