翻訳は難しい
シトロエンC3という車に乗っています。
この車、デザインのためなのかコスト削減のためなのか、物理ボタンを徹底的に排除し、液晶ディスプレイでエアコンやオーディオ等の電装系の操作を行います。このディスプレイはインフォメーションボードの役割もあり、車両に関す様々な情報が表示されます。これらの情報は外国語を日本語に翻訳しているからなのか、ときどき妙なことが起こります。その最たるものが「車両ドアを閉める」という表示。
これが表示されると「あれっ、半ドアだったかな?」とちょっと焦るところですが、実はこれが「vehicle close」の誤訳だったというオチです。
運転中に前の車両と接近したとき、ピロロ〜ンという警告音とともに「車両ドアを閉める」と表示されるのです。
正しくは「接近注意!」「車両間隔注意!」とでも表示すべきなのでしょう。
20年超のイタフラ車乗りとしては、この程度のは笑って済ませられるくらいには鍛えられている(飼い慣らされてる?)のですが、いざ自分の仕事に置き換えて考えてみると、これは大変なことです。笑って済ませられる話ではありません。
海外での特許出願は翻訳が大変
弁理士の仕事の一つに海外への特許出願手続きがあります。ほとんどの場合、その国の代理人と連絡を取り合いながら手続きを進めていくのですが、最大の問題は翻訳です。日本語で作成した明細書(出願書面)をその国の言語に翻訳しなければならないのですが、英語であれば翻訳後の英文の内容を理解することができるので、もし誤訳があればすぐに指摘して訂正することができます。しかし他の言語の場合、誤訳を指摘することは非常に困難になります。
誤訳の原因は日本語で書かれた原文にある
経験から見えてきたことですが、日本語→他の言語の翻訳において誤訳が発生するのは、日本語の原文に問題がある場合がほとんどです。原文に文法上の重大な間違いがある、文脈を掴みにくい、誤字脱字が多いなど不適切な日本語で表現されていれば、たとえどんなに優れた翻訳者であっても、翻訳後の文章は本体の意図からズレたものになってしまいます。
そこで、次の点に注意して日本語の明細書を作成すれば、誤訳の誘発を少しでも減らすことができるのではないかと考えます。
①一文一意を厳守する
②複雑な構文にならざるをえないときは、あえて英語を翻訳したような日本語で表現してみる
③句読点は正しく用いる
④特許業界特有の造語は使用しない
⑤接続詞の使い分けを意識する
⑥全体から細部へ
⑦静的なものから動的なものへ
注意すべき点はまだ他にもありますが、まずはこの辺りから意識してみてはいかがでしょうか。
自戒の念を込めて