NETISと特許

NETISと特許、どちらも新技術を扱う制度であるためか、しばしば比較の対象となります。
しかし、一見するとよく似ているようですが、それぞれの制度目的が異なることから意外なほど多くの相違点があります。
今回は、NETISと特許の両方を扱う弁理士の視点から、NETISと特許を理解する上で特に押さえておきたいポイントについて説明します。

1.制度の趣旨

◾️NETIS実施要領にNETISの目的について以下のように記載されています(NETIS実施要領 1.2 新技術活用スキーム)。
”新技術活用スキームは、公共工事等における新技術の活用検討事務の効率化や活用リスクの軽減等を図り、有用な新技術の積極的な活用を推進するための仕組みであり、新技術の積極的な活用を通じた民間事業者等による技術開発の促進、優れた技術の創出により、公共工事等の品質の確保、良質な社会資本の整備に寄与することを目的とする。”

つまり、NETISの趣旨は、
・民間事業者の新技術の活用を推進すること。
・民間事業者の技術開発の促進、優れた技術の創出を図ること。
・公共工事の品質の確保、良質な社会資本の整備に寄与すること。

の3点に整理することができます。

◾️特許の目的は特許法に定められています。
”発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与すること”(特許法第1条)

つまり、特許の趣旨は、
・発明の保護及び利用を図ること。
・発明を奨励すること。
・産業の発達に寄与すること。

となります。

このように整理すると、NETISと特許はどちらも「新技術=発明の創出と活用を推進することでインフラ整備に寄与すること」を目的としていることがわかります。
同時に両者の違いも明確です。

・NETISにはアイデアを保護するという概念がない。
 →新技術を模倣から保護することができるのは特許だけ。
・NETISは公共工事、社会資本に特化している。
 
→公共工事で活用できる技術でなければNETIS登録できない

2.登録の条件

◾️NETISは、上で説明したように公共工事で活用できる新技術を登録の対象としています。では、公共工事で活用できる新技術とは何でしょうか?
具体的には、①新技術であること、②技術の成立性について論理的な根拠があること、①実用化されていること、の3点がNETIS登録条件になります。

①新技術であること。
 →従来技術と同程度以上の活用効果が見込まれることが実験等によって確認されていること。
②技術の成立性について論理的な根拠があること。
 →公共工事において求められる性能や機能を備えていることが実験等によって確認されていること。
③実用化されていること。
 →利用者の求めに応じて技術の提供が可能な状態にあること。

裏逆に言えば、以下のようなケースではNETIS登録できないということになります。
・開発中であり未だ完成していない技術。(施工実績の有無は問われない。)
・性能や機能に関するデータや試験結果がない技術。
・従来技術と同等以上のメリットが期待できない技術。(例えば、性能に影響しない軽微な設計変更など。)

◾️特許は、「新規性」と「進歩性」と呼ばれる基準が特に重要な登録条件です。新規性とは「公に知られている技術ではないこと」、進歩性とは「公に知られている技術から容易に思いつく発明ではないこと」になります。
「公に知られている技術」はそれこそ無数にありますので、それらを全て確認するのは不可能です。
したがって出願書類を作成する段階で予め回避策を書類中に仕込んでおき、特許庁から新規性や進歩性に関する指摘を受けた場合でも適切な対応がとれるように用意周到な戦略を立てておく必要があります。

3.登録に要する期間

◾️特許は、最短で2ヶ月強で登録することができますが、これは特別な制度や様々な好条件が重なった場合のレアケースです。特許は戦略的に扱われることも多く、また制度自体も大変に複雑であるため、実際のところ取得までの期間は案件によってかなりの差があります。通常はどんなに急いでも半年以上はかかると考えておいてください。

◾️NETISは、概ね5ヶ月〜10ヶ月といったところです。申請を担当する地方整備局によって多少の差があります。特許と違って早期登録のための特別な制度はありませんが、図や写真を使ったわかりやすい説明などいくつかの点に留意すれば国土交通省の確認作業がスムーズに進みますので、結果として早期登録が実現します。

4.登録に要する費用

◾️特許は、①出願→②審査→③登録の段階を経て初めて権利となります。出願、審査、登録の全ての段階で特許庁に手数料️(印紙代)を支払う必要があります。

◾️NETISは、①申請→②書類確認→③登録と特許と同じような手順で登録に至りますが、手数料は必要ありません。

※特許やNETISの登録を代理人に依頼した場合、手数料️(NETISは手数料なし)の他に代理人への報酬が発生します。報酬は自由料金ですので、誰に依頼するのかよって金額に違いがあります。

5.登録によって得られるメリット

◾️特許は、最初に軽く触れましたが、特許権という独占権によって強力に保護されます。特許権の侵害者に対しては厳しいペナルティ、すなわち事業の差し止め、損害賠償等が課せられます。意図的に模倣した場合には刑事罰️(懲役、罰金)が課せられることもあります。
したがって、新技術を誰にも模倣されたくなければ特許の取得がとても有効な手段になります。
また、特許は他人に使用許諾(いわゆるライセンス)することが認められているので、ライセンス収益をあげることもできます。

◾️NETISは、特許と違って独占権などは与えられません。むしろ新技術を広く活用するという方向に作用します。具体的には次のようなメリットを享受することができます。

①国土交通省のNETIS公式サイトに掲載される。
 →NETIS登録されると発注者、施工業者、コンサルタントなどの目に触れる機会が増大する。
②宣伝広告効果が高まる。
 →NETISのネームバリューを営業等に活用できる。
③施工業者がNETIS登録技術を活用すると工事成績評定への加点の対象となる。また令和2年度から直轄工事等におけるNETIS登録技術の活用が義務化された。
 →NETIS登録技術の活用のインセンティブ。

6.NETISと特許、どちらを先に申請した方がよい?

NETISと特許の両方の登録を希望するのであれば、迷うことなく特許が先です。なぜなら、公開された技術は特許を取得できないという原則があるためです(特許法第29条)。NETIS登録された技術はNETIS検索システムを通じて公開されるため、その後に特許出願しても拒絶されてしまいます。(特例的に救済措置が設けられていますが、原則を遵守するに越したことはありません。)

7.NETISと特許の抵触問題

NETISでは特許など知的財産権の有無について確認されることがあります。特許を取得していれば問題はないのですが、特許を取得していなければ(もしくは特許出願中でなければ)、第三者が似たような技術の特許を取得している可能性が考えられるため、国土交通省としてはこのままNETIS登録を認めてよいのか大きな懸念材料となります。このような場合、「他社の特許に抵触していない」という旨を記載した書類を国土交通省に提出することが求められます。
新技術と他社の特許との抵触を調べるには、特許庁が提供する特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を利用すればある程度の情報を得ることができます。特許調査には少々専門的な知識が必要になりますので、知財総合支援窓口や知り合いの弁理士などに相談されるとよいでしょう。

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