知財とリテラシー

知財とリテラシー

◾️リテラシーとは

リテラシーとは、英語の「literacy=文字を読み書きする能力」のこと。転じて現在では、「情報や事象を正しく理解するとともに、それを適切に判断、運用することができる能力。」という意味で使われています。つまり、元来は単に識字力といった程度の意味だったものが、理解力や判断力、分析力などを含む総合的な知性を表す言葉に変貌したわけです。よく耳にする「ネットリテラシー」や「メディアリテラシー」などは全て新しい方の意味で使われています。

◾️知財に関する情報を正しく理解するためには

以前はあまり一般の関心事ではなかった知財(知的財産)の世界も、インターネットの普及に伴ってネットリテラシーやメディアリテラシーの脅威に晒されるようになってきています。特にSNSの場合は発信の容易さもあって、十分に推敲されていない情報、ソースがはっきりしない情報が瞬く間に全世界に拡散していきます。SNS経由で目にする知財の情報には、法知識が不足しているもの、明らかにミスリードを狙っているものなど、専門家である私の目から見ると相当に怪しいものがたくさん混じっています。ネットの世界は玉石混交などと言いますが、こと知財系のSNSに関しては玉はほとんどありません。それらを正しく見分けるにはある程度の専門知識が必要になりますが、とりあえず次のポイントを意識しておくと、さほど大きな間違いは起こらないと考えます

◾️知財の保護と利用を促進することにより我が国の産業・文化の発展を図る

知財に関する法律は、創作者(アイデアの発明者、デザインの創作者、新品種の育成者など)の保護の側面ばかりが注目されがちですが、利用者側の便宜も図っていることはもっと注目されてもいいでしょう。知財関連法の究極の目的は、知的財産の普及による公共の福祉の向上にあると言えます。優れた技術、品種、芸術作品の創作者には一定期間独占権を与えることにより投資を回収する機会を与え、その成果を享受したい者には一定の制限のもとで利用の機会を与える。これにより創作者の生活が安定し、更なる創作意欲が湧くであろうし、利用者は他人の成果物を利用することで自身の技術レベルが向上し、今度は自分が創作者となることができる。このような、創作→利用→新たな創作」を繰り返すことにより日本の産業・文化の底上げが実現するというロジックになります。

◾️保護と利用のバランスが大事

知財を巡るほぼ全ての事象は、この「保護」と「利用」をキーワードに読み解くと驚くほどスッキリと理解できると思います。創作者には創作物の利用について一定期間の保護が与えられます(特許であれば出願から20年、著作物であれば著作者の死後70年など)。この期間内は特許権者や著作権者だけが成果物を享受することができます。もちろん対価を支払うことで許諾を受ければ第三者も成果物を享受することができます。年会費を支払って音楽や映画(著作物)を楽しむ、代金を支払ってハイブリッドカー(特許発明)に乗るなど、ほとんどの方は意識することなく許諾を受けて成果物を日常的に利用しています。これで得たお金がこれまでの投資の回収とこれからの新たな創作に繋がるのですから、海賊版や違法ダウンロードの横行は創作者にとって生活を脅かす死活問題となるわけです。権利期間が過ぎると対価を支払うことなく成果物を利用することができるようになります。これにより世の中の技術レベルや創作レベルの水準が一段階上がり、それをベースにさらに優れた技術や芸術が生まれる土壌が醸成されます。
知財は保護が行き過ぎてもダメ、利用が行き過ぎてもダメ、程よいバランス感覚がとても大事であることがお分かりいただけたかと思います。もちろん現実はもっと複雑な事情が絡み合って一筋縄ではいかないことも多々ありますが、基本は「保護と利用」です。ニュースに接したとき、「これはメーカーの利益に偏った記事だな」とか「ただで利用させろという主張はちょっと理不尽じゃないかな」と批判的な視点で読み解くことがリテラシー的に大切なことだと思います。