「あまおう」と知的財産

「あまおう」と知的財産

「あまおう」は誰のもの?

福岡の特産品であるイチゴ「あまおう」に関するニュースが盛んに報道されています。「独占権切れ」「知財切れ」など記事によって表現がバラバラですが、それでは「あまおう」は一体誰のものなのか気になる方も多いでしょう。
結論から言うと、種苗法的には福岡県のもの、商標法的には全国農業協同組合連合会(JA全農)のものとなります。(無体物としてみた場合)
なお、「あまおう」を有体物(農産物、商品など)としてみた場合は、生産段階では生産者のもの、販売後は購入者のものということもできます。

福岡県は2025/1/19まで「あまおう」を独占できる。

「あまおう」は「福岡S6号」という名称で品種登録されています。品種登録されると登録品種の種苗、収穫物、加工品の販売等を20年間独占することができます(現在は法改正により25年に延長)。この独占権(正式には育成者権)の権利者は福岡県です。もちろん福岡県から使用許諾を受けた法人や個人の方も生産や販売が可能です。
では、育成者権が2025/1/19に消滅すると、翌日から誰でも「あまおう」を生産したり販売したりできるのでしょうか?

2025/1/20以降、「あまおう」は誰でも生産・販売してもけど、『あまおう』と表示できるわけではない。

ここから少しややこしくなりますが、「あまおう」には法律的に2つの側面があります。一つはこれまで話した登録品種としての「あまおう」。これは「福岡S6号」という名称で福岡県が育成者権を所有しています。もう一つは商標としての『あまおう』。こちらはイチゴの名称として全国農業協同組合連合会が商標権を所有しています。
今回、権利が切れるのは登録品種としての「あまおう」、すなわち「福岡S6号」の育成者権です。一方の商標権は半永久的に存続しますので、育成者権が切れた後であっても商標『あまおう』を使用できるのは全国農業協同組合連合会および使用許諾を受けた法人や個人だけです。

権利なき後は品質と信頼感の勝負

しばらくすると、「あまおう」に似た外観や食感のイチゴが比較的安価に出回るかもしれません。もちろん『あまおう』とは別の名称になることでしょう(似せてくる可能性はあります)。このこと自体は何ら違法性はなく、知的財産制度の正しい利用法です。後発者がSNSなどで叩かれることも十分に予想されますが、成熟した市民として冷静な対応が求められます。自動車、コンピューター、医薬品など元は高価だった物が誰でも安く買えるようになったのは特許権や意匠権が切れたおかげです。
「あまおう」はイチゴのブランドとして十分な地位を確立していると思われますので、価格競争に巻き込まれることなく、これまでに蓄積したノウハウを活かして安全で高品質なイチゴを生産していただきたいと思います。