e-Taxの商標権者が国税庁ではなかった件

e-Taxの商標権者が国税庁ではなかった件

弁理士の業務のうち意見書の作成ほど弁理士の個性が顕著に反映されるものは他にあまりないように思います。「個性」に「能力」や「実力」を付け加えてもよいかもしれません。

今回はこのことではなく、意見書を作成する際にちょっと気になったことがあったので、そのことについて書きます(能力云々は別の機会に)。

意見書を作成する際には、審査官が拒絶理由通知で挙げてきた引用文献(登録公報)を参照するのは当然ですが、審査官への意見の論拠を裏付けるためにも登録公報の検索は欠かせません。

さて、その論拠を探して「e〇〇」「e-〇〇」に類する商標の検索を行っていたところ、「イータックス/ETAX/etax」「e-TAX」「E-TAX」が商標登録されていることがわかりました。

確定申告をされる方はご存知かもしれませんが、「e-Tax」とは、インターネットを通じて確定申告などの行政サービスが受けられる国税局のシステムのことです。

商標権者は、当然、国税庁長官だろうなと思って確認したところ、3件とも民間の法人もしくは個人のものでした。急いで「国税庁庁長官」の名義で登録(出願)されている商標を調べてみたところ、審査中のものが2件あるのみで(「e-Tax」とは無関係のもの)、「e-Tax」に関係するものは登録も出願もされておりません。

ここからは一実務家の推察になります。間違っているかもしれません。

まず判明している事実は、
・「e-Tax」システムは2004年6月に供用開始。
・前述の3件の商標登録の出願日は2000年と2001年。
・国税庁は過去に商標「e-Tax」を出願していない(私の調査に漏れがなければ)。

ここから見えてくることは、
・ほぼ同時期(2000年,2001年)に異なる3者がほぼ同じ商標を出願したことは偶然とは考えられないので、その時点で税務関係の業界において「e-Tax」に関する情報が広まっていたのかも。
・3つの登録商標の態様が微妙に異なることから、当初は「イータックス」と発表されていたものに3者各自でローマ字を当てはめたか、もしくは「e-Tax」と発表されていたけど全く同じだと気が引けるので多少いじってみた、とか。もしかしたら3者間において出願前に話し合いがもたれた可能性も。
・国税庁が3者に対して無効審判も不使用取消審判も請求していないことから、国税庁と3者との間で商標「e-Tax」の使用について話し合いがもたれた可能性は十分にある。

→話し合いの結果、国税庁は3者から権利行使されることなく商標「e-Tax」を使用することができるようになった。

商標登録出願のタイミングを間違うと大変なことに!

この案件から何かの教訓を得るとすれば、ビッグプロジェクトを発表するときには、その前に商標(発表内容によっては特許や意匠も)を出願しておきましょう、という当たり前のことの繰り返しになります。

今回は被害者?が国税庁という圧倒的優位にある者だったので、表面的には波風立たずに収束しているようですが、一民間企業であれば交渉に時間とお金を費やし、それでも使用許諾が得られないかもしれません。

なお、以前アップした”アマビエと商標の問題を考える”に書いたことの繰り返しになりますが、既に世に知られている名称、他人が考えた名称などを商標として出願することには法律上の問題はなく、他人からあれこれ言われるようなやましさはありません。そもそも世間でよく言われる、商標を登録するだけで事業を独占、そして大儲けなんて図式は、商標の実情を知る者の目から見ると絵に描いた餅ですから。

商標登録の第一義的な目的は競業秩序を維持することにあり、その結果として消費者の利益(商品を取り違えることなく安心して購入することができる)が守られます。この趣旨に適わない商標は、出願人が誰であろうと特許庁がちゃんと拒絶してくれます。