アマビエと商標の問題を考える

アマビエと商標の問題を考える

株式会社電通が『アマビエ』を商標登録出願

株式会社電通が『アマビエ』を商標登録出願したというニュースが広まるや否や、ネット界隈では「また電通案件かっ?」「安定のD案件」などといった例の炎上が始まっているようです。

対岸の火事として炎上を傍から見ている分にはいいのですが、当事者(今回は電通)が反論してこないことをいいことに、往々にして発言者の勇足というか、明らかに間違った知識や認識に基づいた過激な発言などをみるにつけ、「なんだかなぁ〜」といった気分に苛まれます。

まずは事実関係の整理

電通の出願内容で判明しているものは以下の通り

・商標:『アマビエ』(標準文字)
・指定商品(役務):アプリ、広告および小売、放送、デザインなど全部で4区分
・出願人:株式会社電通
・出願日:令和2年6月30日

正直、炎上する程の案件なのかな?

指定商品(役務)を見る限り、何れも電通の本業に属する分野ばかりであって、一部の発言にあるような、他人の業務の妨害を意図したような網羅的なものではありません。むしろ本業を円滑に遂行するための防衛的な観点からの出願であることが伺えます(ピコ太郎商標事件などを教訓とした予防策)。

これを見る限りでは、今回の電通の商標登録出願は、自己防衛を目的とした健全な企業活動の一環としての極めて当然な行為と言えます。

ちなみに、アマビエを商標登録出願した個人や法人は電通以外にも多数あり、現時点で10以上のアマビエ関連の出願があるようです。指定商品としては、お菓子や酒、マスク等の衛生製品といったところです。変わったところでは、ある宗教法人(神社)が「お守り」について出願していました。これらもざっと見た限りでは防衛的な意図で出願されたもののようです。

そもそも商標とは

今回の一連の炎上では、「『アマビエ』のように皆が自由に使用できる名称を商標登録するとはけしからん」的な発言が多かったのですが、これも大きな誤解です。

商標法には「こんなものは商標登録できませんよ」という不登録事由が限定的に挙げられていて、原則としてこの不登録事由に該当しない限りどんな名称でも商標登録できてしまいます

不登録事由には「皆が自由に使用できる名称」「他人が考えた名称」などという項目はありませんので、これを理由にアマビエ商標の出願が拒絶されることはありません。

「法律はともかく商道徳的にはどうよ?」という声も聞こえてきそうですが、これに関しても、一民間企業が法律に則って自己防衛することを外野があれこれいう筋合いはありません。

『アマビエ』は商標登録できるか?

『アマビエ』がある商品の名称として周知になっている事実はないし、特定の商品の名称として世に認識されているという事実もありませんので、商標登録される可能性は十分にあります

ただしこれらの事実の判断時は登録査定時であるため、これから1年以内に、『アマビエ』が電通が指定した業務において、それら名称として世に周く知られるようになった場合には拒絶される(商標登録できない)こともあるでしょう。

もしかしたら、商標法3条1項6号もしくは商標法4条1項7号あたりで一度牽制してくるかもしれません。

商標登録された言葉は使っちゃダメ?

よく誤解されている点ですが、そんなことは絶対にありません!

もし『アマビエ』が商標登録されたとしても、『アマビエ』を商売の目印として使用する権利が発生するだけであり、言葉それ自体に独占権や排他権が生じるわけではありません。

従って、特定の商品やサービスの名称として使用しない限りは、誰でもアマビエを自由に使用することができます